食指
好き。
アンタの指が好き。
好きで好きで仕方ないの。
長くて、細くて、関節が少し飛び出てて、血管が浮き出てて…
あぁ、とにかくもう、全部好き。
触れて、絡めて、キスして、舐って、食んで。
歯を立てればすぐに、確かに骨の存在を感じる。
もっと、もっと、もっと、強く。
アンタが遊女だったら良いのに。
紙花でも床花でも、幾らでも貢ぐから。
コレサ、御大尽様、わっちの真はおまはんだけさ…
なんて戯言もいらないから、情夫になんてしてくれなくて良いから、心中立てだけしてよ。
第一関節だけなんてケチ臭い事言わずに、まるっぽ全部欲しいの。
ねぇ、ちょっと、奪わないでよ。
痛いから、なんてそんな下らない理由で奪うなよ。
歯型ついちゃったじゃん、なんて当たり前の事言ってんじゃねぇよ。
付けてんだよ。
ほんとは噛みちぎりたいのに、我慢してんだよ。
悔しくて言葉も出ない。
オヤスミ、なんて向けられた背に歯噛みする。
ああ…
今日はもう私に触れてはくれないんでしょう?
ひとり、ベッドの上で胎児のように膝を抱えて丸くなっとけばいいんでしょう?
今の私にとってのアンタの指は、母親の胎内にいた頃の臍の緒と等しく同じだから。
だからもうすぐ切り離されてしまうのに、それなのに、今この時この瞬間すら私の好きにさせてくれないなんて。
ねぇ、ひどいよ。
ちょうだいよ。
アンタを形作る全て、アンタがアンタたり得る為に必要な全て、指以外のその他は何もいらないから…
ください。
施して下さい。
こんなにも純粋で、清らかで、幼気で控えめな願いすら叶えてくれないなんて、
外道だ、下郎だ、悪逆の極みだ。
お前には指以外の価値なんてねぇよ。
それでもアンタがその指の持ち主である限り、私はアンタから離れられないんだよ。
それが分かってるからこんな酷いことが出来るんでしょ?
虚しくて、悲しくて、飢えて、飢えて飢えて飢えて飢えて飢えて仕方なくて、
どうしようもなくなって涙を流せば、またいつものように触れてくれる?
愛おしいその指で涙を拭ってくれる?
捻り出せ。
満たされず空っぽだとか言い訳してんな涙腺。
干涸びても良いから、千切れてバラバラになった生命エネルギーを集めて泣け。
今ここで泣けないならお前は役立たずだ。
役立たずの分際で、あのお指様に触れてもらえるなんて思うな。
烏滸がましいんだよ。
ああ…、ほら
出た。
泣いてるよ?私。
泣いてる。
涙腺脅して泣かせたんだよ?
寿命削って泣いてるんだよ?
ねぇ、見て?
ねぇ、ちょうだい?
ねぇ、お願い。
fin