lovers





物心ついた頃、私と同じくらい小さな手で頭を撫でてくれたアナタ。
顔も声も名前も忘れちゃったけど、その手はどうしようもなく温かかった気がする。

他人の唇の柔らかさを教えてくれたアナタ。
その行為の意味はよく分かってなかったけど、照れくさそうに笑う姿が可愛かった。
だけどゴメンね?
味なんてよく覚えてないの。

私の身体中に穴を開けたアナタ。
アナタの残した穴は広がって、あれから数も増えたの。
あの時は痛くて泣いちゃったけど、今思えば大した事なかったんだなって。
笑っちゃう。

嵐のように私の上を通り過ぎていったアナタ。
色んな遊びを教えてくれたけど、性格も価値観も何もかも合わなかったよね。
最初から分かってたし、アナタの胸に咲き誇るお花に見惚れちゃってただけ。

傷を舐め合うように寄り添ってくれたアナタ。
暫くアナタの残したスウェットを抱いて眠ってた。
アナタの匂いに包まれてる気がして。
でもそれも燃えるゴミと一緒に纏めて捨てちゃった。

みんなみんな私の中に溶けて、血と骨になって細胞の一つ一つに染み込んでる。
時々揺蕩たゆたうように顔を覗かせるけど、大丈夫。
ちゃんと感謝してる。

今の人は、甘い言葉なんてくれないし、気紛れにやってきては一緒に眠るだけ。
私になんて興味なくて、この世の全てに興味なんてなくて。私が何したって気にも留めないの。

だけどいいの。
私が私らしくいられるからそれでいいの。
私を愛してくれないアナタが好き。
アナタがいなくなったってきっと私は泣かないし、同じように感謝するだけ。

ねぇ、みんな。
私、強くなったの。
知らないでしょ?
一人でだって生きていける。
やさぐれでも、強がりでもない。
私には私がいるから。

ただ、これだけは言わせて?

ありがと。





fin

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